木の中の住人

自由帳

レナは毎日通る公園で、古びた木の幹に目を留めた。

その木は他の木々と変わらず、ただそこに立っているだけだった。
けれど、その日はなぜか違った。
木の表面に、まるで何かがこちらをじっと見つめているような気配を感じたのだ。

「気のせい…だよね?」

レナは立ち止まり、木に向かって顔を近づけた。
幹に走る木目が、ぼんやりと顔のように見える。
細い目、かすかに微笑んでいる口。だが、もちろんそれはただの木目だ。
何の意味もない、偶然の模様。

「笑ってるみたい…」

レナは自分の独り言に苦笑した。

だが、その日を境に、彼女は木のことが頭から離れなくなった。
毎日、その木の前を通るたび、レナはその「顔」を見つめてしまう。
最初は木目が偶然作った形だと思っていたが、日に日にその顔が鮮明になっていくように感じた。

「今日も、見てる?」

いつの間にか、レナは心の中で木に話しかけるようになっていた。
もちろん、木は何も答えない。
ただそこに立ち、木目が「顔」を形作っているだけ。
だが、レナにはその顔が少しずつ動いているように見えた。

「本当に…笑ってるの?」

ある日、レナは震えるように問いかけた。
木はやはり何も答えない。
だが、その顔は以前よりもくっきりとした表情を浮かべていた。

「おかしいよね、これは…」

レナはその木から目を離せなくなった。
近づくたびに、木の「顔」は微妙に変化していく。
そして、ある日、レナははっきりと見た。

木が笑っているのではなく、彼女を見て、ほんの少し口元を動かした瞬間を。


パレイドリアとは?

「パレイドリア」という現象があるらしいです。
人は曖昧な形や模様の中に、無意識に顔や意味を見出すことがあるそうです。
木目や雲の形が人の顔に見えたり、ただの物体に何かしらの意味を感じたりすることがあるとか。
もしかしたら、皆さんも一度は経験したことがあるかもしれませんね。

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