タカシはふと気がつくと、見知らぬ街に立っていた。
薄暗い夕暮れの中、古びた石畳が延びる路地の先に、小さなアーケードが見える。
どこにいるのか分からないが、どういうわけか、ここをよく知っているような気がする。
「ここ、どこだったかな」
誰にともなく呟くと、その声がやけに響く。
まるで、この街全体が彼の声を受け取っているかのようだ。
タカシはアーケードの方に歩き出す。
歩くたびに、路地から懐かしい音がふわりふわりと漂ってくる。
遠くで響く小鳥のさえずり、子供たちの笑い声、さらには柔らかなピアノの音が、彼の記憶をくすぐる。
その喧騒がいつしか小さな喫茶店の前で止んだ。
店内はがらんとしているが、カウンターの上にはコーヒーの湯気が漂い、まるでタカシが来るのを待っていたかのように見えた。
彼はそのまま椅子に腰掛け、目の前の湯気をじっと見つめた。
湯気がゆらりと揺れ、まるで空気が柔らかく溶け出すようだ。
気がつくと、窓の外には彼が歩いてきた道がぼんやりと浮かんでいる。
しかし、その景色もまた、ゆっくりと霧の中に溶けていく。
見知らぬ街の路地も、懐かしかった店内も、まるで手のひらの中の砂のように、さらさらと指の間からこぼれていった。
「また、会えるかな」
小さな声でそう呟いた。
タカシの中には静かな余韻だけが残り、気づけば街も音も、すべてがひとつのしずくとなって心の奥へと沈んでいった。
デジャヴとは
デジャヴは、初めて訪れた場所があたかも以前に訪れたように感じられる不思議な現象らしいです。
記憶の中でほんの一瞬、懐かしい風景に出会うこともあるとか。
タカシもまた、そんな一瞬に迷い込んでいたのかもしれません。

