台風に名前をつける夜

自由帳

台風の名前が気になったのは、ある嵐の夜だった。

雨が窓を叩き、風が街を切り裂くように吹き荒れる中、彼はなぜ台風に名前がついているのかをふと考えた。
台風14号――その数字の無味乾燥さに、どこか冷たさを感じたのだ。

「もっと適切な名前があるんじゃないか?」

そう思った彼は、独自に台風に名前をつけることにした。
なぜなら、彼にとって台風はただの気象現象ではなく、どこかしら個性を持つ存在に思えたからだ。
例えば、今回は「グレタ」と名づけよう。
少し無骨で強いけれど、どこか温かさもある名前だ。

夜中、彼はベッドの中で目を閉じ、台風「グレタ」の姿を思い浮かべた。
大きな目を持ち、ゆっくりと北へ進むその姿は、まるで何かを探しているかのようだった。
もしかしたら、グレタは故郷を探しているのかもしれない。
彼女はただ、帰るべき場所を見つけるために旅を続けているのだ。

翌朝、ニュースを見ていると、気象予報士が「台風14号」の進路を説明していた。
彼は笑みを浮かべながら画面を見つめた。
彼にとって、今やそれは「グレタ」であり、数字だけでは語れない物語がそこにあるのだ。

彼は一人、静かに台風に名前をつけることを続けた。
それは彼にとって、嵐の中での小さな抵抗であり、また一種の遊びでもあった。
名づけることで、彼は台風に対して少しだけ優位に立てる気がした。
数字ではなく名前を持つことで、その台風は彼の世界に取り込まれ、彼の想像の中で生き続けるのだ。

彼の名づけた台風は、決してニュースで報じられることはない。
それでも彼にとって、それは確かに存在する。
嵐が過ぎ去った後、彼は窓を開け放ち、すっきりと晴れた空を見上げた。
グレタはもういない。
しかし、彼の心の中には、名前を持った台風が静かに残っていた。


名付けられた台風たち

ちなみに、実際に台風の名前はあらかじめ用意されたリストから選ばれるらしいです。
でも、ひっそりと誰かが独自の名前をつけるのも、台風を少しだけ身近に感じる方法かもしれませんね。

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