アキラはふと、指先に温かなものが触れるのを感じた。
涙だ。
気づけば頬を伝い、静かにその手の中にしずくを落としていた。
理由はわからない。
ただ、涙が零れるたびに、胸の奥にこびりついた何かが少しずつ剥がれていくようだった。
彼は息をひそめて、部屋の静けさを感じた。
時折カーテンがゆらめき、風が微かに入り込んでくる。
それと同時に、心の中にも小さな風が吹き込んでくる気がした。
さっきまでずっと、重たくて無骨だった胸の奥が、今ではどこか柔らかくなっている。
視界がぼやけるたび、部屋の中に見慣れた影が静かに揺れる。
壁に貼った古いポスターが、ひとりでに動き出したように感じられるほど、今はあらゆるものが近くに感じられた。
涙がしずくとなり、指の間から消えていく。
その一瞬ごとに、何か大事なものがそっと手放されていく気がする。
「ただ…これでいいんだな」
誰に向けるでもなく呟いたその言葉が、暗闇に溶けていく。
思わず笑みがこぼれ、少しだけ息が楽になったようだった。
何も変わらない部屋の中で、ただ自分だけが少しだけ軽くなった気がした。
その後しばらくして、アキラは窓の外を見上げた。
夜空の暗がりにぼんやりと月が浮かんでいる。
月明かりに照らされた街がどこか柔らかく揺らいでいて、まるでその静かな光が自分の胸の中にも届いているように感じられた。
涙のしずくについて
涙を流すと、胸の奥の何かが少しずつほぐれることがあるらしいです。
涙が心をゆっくりと解きほぐし、心の重荷をほんの少し軽くしてくれるのかもしれませんね。
アキラもまた、そのしずくの力を感じていたのかもしれません。

