ヒロシはデスクに座り、ペンを回しながら窓の外を眺めていた。
オフィスの空気はひんやりとしていて、夕焼けが部屋の隅にかすかな影を作っている。
何かが妙に引っかかっていた。
だが、その理由がはっきりしない。
ただ、何かが「見えない」まま、そこにある気がする。
指先で回していたペンが突然止まった。
空気が変わった。
ヒロシは、視線を周囲に走らせるが、そこにはいつもの無機質な風景が広がっている。
書類の山、無音のパソコン、誰もいない部屋。
それでも、何かがここにいる気配が消えない。
ふと、ドアの方から音がした。
誰かが入ってきたような気がした。
ヒロシはすぐに振り返ったが、ドアは閉まっていて、誰もいなかった。
彼は眉をひそめ、再びペンに目を戻す。
しかし、ペンがあるべき場所がどこか違う気がする。
「おかしい…」
彼の心臓が鼓動を早める。
何かが見えていない。
部屋のどこかに、確かに「何か」がいる。
それは人でも、物でもなく、形すら持っていないかもしれない。
それでも、その「何か」はここに存在し続け、じっと見つめているように感じた。
ヒロシは再び視線を部屋中に巡らせるが、やはり見えない。
まるで、自分が見逃しているものがここにあって、それがヒロシを嘲笑っているかのようだ。
何かを見落としている
――確かにそこにあるのに、視界には入らない。
彼はそのまま固まっていた。
インビジブル・ゴリラについて
インビジブル・ゴリラという心理実験があるらしいです。
注意を特定のものに集中しすぎると、目の前にある明白な出来事を見落としてしまうことがあるとか。
普段気づかないだけで、見えているはずのものを見逃していることが、実はたくさんあるかもしれませんね。

