靴下はどこへ行ったのか?
それが彼の頭から離れない。
いつも2つ揃えて洗濯機に放り込んだはずなのに、干すときになると片方が消えている。
それはもう、彼の日常の一部になりつつあった。
今日もまた、片方だけの靴下がハンガーに揺れている。
その光景は、何かが不完全なまま動いているような、そんな不穏さを感じさせた。
だが彼はもうそれを気にしないことにしていた。
靴下の片方が消える。
それがこの世界のルールなのだと、彼は決めたのだ。
ある夜、彼は寝室にいると、部屋の隅に見慣れない扉があることに気づいた。
その扉はまるでずっとそこにあったかのように、無言で彼を誘っていた。
彼は手を伸ばしてその扉を開ける。
そこには、無数の靴下が、空中をふわふわと漂っていた。
色とりどりの靴下たちは、まるで何事もなかったかのように、静かに舞い踊っていた。
「やあ、君が来るのを待っていたよ。」
突然、靴下の中の一足が話しかけてきた。
彼は驚いたが、同時に妙な納得感があった。
やはり、靴下たちはここに来ていたのだ。
彼の消えた靴下たちが、集まって一つの社会を作り上げていたらしい。
「僕たちは、もう人間の足に巻き付く必要はないんだ。ここで自由に漂っている方がずっと楽しいんだよ。」
彼は言葉を失った。
ただ、靴下たちの漂う様子を眺めていた。
それは美しくもあり、同時に、何かが狂っているような感覚も覚えた。
目が覚めると、彼はベッドにいた。
夢だったのか?
足元を見ると、またしても靴下が片方だけ消えていた。
だが、今度はそれに動揺しなかった。
彼は知っていた。靴下たちは彼の知らない場所で、自由に過ごしているのだと。
彼はそのまま微笑み、靴下が戻ってこないことを静かに受け入れた。
彼らはもう自分の足元にはいないが、それでいいのだ。
彼にはまだ片方の靴下が残っている
――それだけで十分だ。
小さな靴下の自由
ところで、靴下が消える理由の一つに、洗濯槽とゴムパッキンの隙間に迷い込むことがあるらしいです。
ひょっとしたら、靴下たちはそこで秘密の生活を送っているのかもしれませんね。
