消えた噂

自由帳

古びた喫茶店「ルーメン」に集まる人々は、みんな不思議な話が好きだった。
常連たちは、毎日どこからともなく持ち寄られる噂話や謎めいた出来事を楽しみにしていた。

ある雨の日、マキがいつものテーブルで、ぽつりと呟いた。

「この町のどこかに、記憶がぼんやりする場所があるんだって。」

「何それ?」

リョウが笑いながらコーヒーを飲んだ。

「また都市伝説?」

マキはゆっくり首を振った。

「いや、本当らしい。そこに入るとさ、最初は信じてなかったことが、時間が経つと急に信じられるようになるんだって。逆に大事なことは忘れちゃうんだ。」

店内に広がる静かなざわめき。
誰もが一度は「そんなこと、あるか?」と思ったが、誰も否定はしなかった。
なぜか、この話だけは妙に耳に残る。

「じゃあ、その場所ってどこにあるの?」

リョウが興味津々で訊いた。

マキは、曖昧に微笑んだ。

「それがね…よく覚えてないんだ。」

ミキがクスクス笑った。

「それじゃ、ますます怪しいじゃん。」

「でもね、なんか記憶の奥にある感じがするんだよ。」

マキは懐かしそうに天井を見上げた。

「ほら、例えば子どもの頃に信じてたことって、なんか突然思い出して、あれ?ってなる時ない?」

リョウは腕を組み、「ふーん…」と考え込んだ。

「まぁ、そういうこともあるか。」

その日は、みんなその話を頭の片隅に置いたまま、それぞれの家路についた。
リョウもふと、途中で思い出そうとした何かがある気がした。
でも、どんなに考えても、思い出せない。

あの噂はただの冗談だったはずなのに。
なぜか、その日の帰り道、リョウはその話を少しずつ信じ始めていた。
そして、少しずつ大事なことが薄れていく感覚があった。


スリーパー効果について

スリーパー効果とは、初めは信じられなかった情報が、時間が経つにつれて、次第に信頼できるようになる現象らしいです。
ケンタの体験も、もしかしたら時間が経ってからじわじわと現実味を帯びる噂だったのかもしれませんね。

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