タカシは、いつもの通りを歩いていた。
特に目的があったわけではない。
ただ、ふらりと街を散策していた。
けれど、今日は何かが少し違った。
何気なく目に入ったものに、彼は妙に従ってしまう自分に気づいた。
最初は、小さな電柱の落書きだった。
「左に行くと、いいことがあるよ」
タカシは苦笑いしながら、なぜか左へと曲がった。
次に見つけたのは、古びたポストのそばに置かれた小さな石。
石の横に、「この先で休憩しませんか?」と書かれたメモ用紙。
なぜか、そのまま進んでしまった。
何も考えずに、次々と目に入るささやかな指示に従っている自分がいた。
看板、ポスター、落ち葉の形までもが、彼を導いているように感じる。
そして気づけば、彼は普段なら行かないような道にいた。
見慣れない公園にたどり着き、無意識のうちにベンチに座った。
「どうしてここに?」
タカシは目を閉じ、頭の中で反芻した。
自分で決めていたはずなのに、なぜここに来たのかがはっきりしない。
ただ、ここに来ることが当然であったような気がする。
導かれるままに進んでいたが、その流れが途切れると、不思議な静けさだけが残った。
日は傾き、タカシは立ち上がった。
誰に誘導されるでもなく、今度は自分の足で歩き出すことにした。
次は、自分が選ぶ道を進もうと。
ナッジ理論について
ナッジ理論って、知らないうちに選択を促される現象らしいです。
強制ではないけれど、ふとした仕草やメッセージが、私たちに無意識に行動を選ばせることがあるんだとか。
日常でも、案外そうした誘導があるのかもしれませんね。

